神奈川県本部での業務がひと段落した夕方。
外は落ち着いた空気が漂い、窓から差し込む光が少しだけ柔らかく感じられた。
そんな静けさの中にも、空手に関わる仕事独特の緊張感と達成感がほんのり残っている。
片付けを終え、道場でゆっくりしていると
後ろから声が聞こえた「よしたかーー!!」
井村先生の声だ。
自分が空手を続けてこられた理由のひとつであり、
技術だけでなく、姿勢や生き方までも教えてくれた“恩師”そのものの存在。
先生は終わりに声をかけて、道場を後にしようとしていた。
その姿を見ると、日常の業務とは違う、胸の奥がじんわり熱くなるような感覚が湧いた。
──今日、せっかくだから、写真を撮ってもらえないだろうか。
普段なら遠慮してしまいそうなお願い。
でも、いつも背中で示してくれる先生と、この仕事終わりの穏やかな時間に残す一枚には、
きっと特別な意味がある気がした。
少し勇気を出して声をかけた。
「井村先生、お疲れ様でした……よかったら、一緒に写真を撮らせていただけますか?」
先生は、一瞬驚いたように目を丸くしたあと、
いつもの柔らかい笑顔で頷いてくれた。
「いいよ、撮ろう。」
肩の力がスッと抜けるようなその言葉に、心が温かくなる。
並んだ瞬間、これまでの稽古の日々、学んだこと、励まされた場面が頭をよぎった。
シャッター音が小さく響いた。
その一瞬は、ただの記念写真以上のものだった。
師弟として積み重ねてきた時間が、静かに形として残ったような感覚。
撮影を終えると、井村先生は「また、よろしくな!!」と声をかけてくれた。
その言葉はシンプルなのに、深く胸に響いた。
本部を出る頃には、空気はすっかり夜の気配に変わっていた。
それでも、その一枚が心の中を明るく照らしていた。
──今日の写真は、また新しい一歩を踏み出すための力になる。
そんな確かな実感を抱きながら、家路についた。




