全国大会の会場に足を踏み入れた瞬間、
まず目に飛び込んできたのは、どこまでも続く白と水色のマットだった。
その清々しい色合いが大会の緊張感をしっかりと支え、
会場に漂う独特の静けさと気迫を際立たせていた。
選手たちはマットの端で黙々と動きを確認し、
審判員たちはそれぞれの位置で心の準備を整えている。
自分もその一人としてコートに立ち、
旗を握った瞬間、自然と呼吸が深くなる。
「今日は気を引き締めて、しっかり臨もう」
そう思った矢先、
静かに歩いてくる人物に目が止まった。
全国大会優勝者・五十嵐先生。
審判員のYシャツとグレーのズボンが、白と水色のマットからとりわけ際立って、
その姿勢の良さと落ち着いた佇まいだけで周囲の空気が変わった。
まさか同じコートで審判をすることになるとは──
胸の奥が少し高鳴る。
試合が始まると、五十嵐先生の動きはさらに際立った。
選手の間合いを読む視線、
技の鋭さを瞬時に見極める判断、
旗を上げる動作のキレ。
白と水色のマットの上でその一つひとつが光り、
「全国優勝者は審判としても一流なのか…」と圧倒されるほどだった。
自分も同じラインで旗を持つ者として、
一つひとつの判断に重みを感じ、背筋が伸びる。
試合の合間、五十嵐先生と目が合った。
先生がふっと微笑む。
その一瞬で、緊張が解けて勇気が湧いてきた。
──今しかない。
このチャンスは絶対に逃せない。
「五十嵐先生…よろしければ一枚写真を撮らせていただけませんか?」
言葉に少しだけ熱がこもってしまったが、
先生は気負う様子もなく、
「もちろん!」
と快く応じてくれた。
白と水色のマットの端に並んで立つと、
ここまでの積み重ねや、今日の緊張や、
“同じ土俵に立てた”ことへの誇らしさが自然と込み上げてきた。
スタッフがシャッターを押す。
カシャッ。
その音は、
単なる記念撮影ではなく、
自分の空手人生に刻まれるひとつの節目のように響いた。
写真を撮り終えると、五十嵐先生は
「では、またよろしくお願いします」
と声をかけてくれた。
その言葉が心に深く刺さり、
マットの上を歩く足取りは、どこか軽かった。
全国大会での刻まれた今日の記憶。
その一枚の写真は、これからの自分を前に進ませ続ける力になる。




